特殊な状況を成立させるバランス『あるいは最後の晩餐』

佐倉島こみかん『あるいは最後の晩餐

間違えれば最後の晩餐!? 毒入り料理を選ぶ為、許された質問は1つ

麻薬売買の情報を警察に売ったとあらぬ疑いを掛けられた鬼島(きじま)は、拷問官の馬酔木(あしび)の元で目覚める。生きて戻るチャンスと言われて出されたのは、正しい組み合わせで食べれば助かる毒入りの料理で――!?
※『草食アングラ森小説賞』参加作品です。




おはようございます、辰井です。先日は自主企画「辰井講評窓口3」にご参加くださりありがとうございました。こちらに講評を書きます。

危機的状況に陥っているヤクザが正しい組み合わせで食べると助かる毒入りの料理を1回だけ質問できるというルールのもと生き残りをかけて食べる話。冷静に考えてみるとめちゃくちゃ変な状況なのですが、すんなり呑み込めるから不思議です。不思議と言っていては講評にならないので、理由を考えてみるんですが、拷問官馬酔木のキャラクターも含め、小説全体がいい意味で漫画的であり、リアリティラインが下がっているのが一つの要素としてあると思います。毒入りグルメ頭脳ゲームを含めた全体のトンマナが合っているのです。

主眼の毒入りグルメ頭脳ゲームですが、面白いです。みんなが知っている毒物を使うというルールと、馬酔木の性格から推測して立てるロジック。ルールとロジックがしっかりしているというのは頭脳ゲームとして大事なところだと思います。馬酔木のキャラクター性が本作の娯楽性を高めていると同時に、ゲームのキーにもなっているのですからタイトで締まりのある組み立てです。
途中鬼島に皿まで舐めさせるのは馬酔木のゾクゾク感をこちらまで感じられる描写でよかったです。あと、料理と入れた毒をゲーム後に全部教えてくれるのも、そうこなくてはというところで大変満足感がありました。料理も描写自体はコンパクトで普通のことばを使っているのにやたら美味しそうなんですよね……。

唯一気になるところを挙げるとするなら、これからボスに事情を説明に行くとはいえ、若頭派との紛争で罪をかぶせられ、自分の上司にあたる若頭補佐にも切り捨てられた鬼島が二大派閥が依然として残るであろう組の中でどうなるのか若干不透明であり心配になるくらいでしょうか。

話の骨子が面白い上にこみかんさんのグルメ描写も楽しめる満足度の高い娯楽小説でした。読ませてくださりありがとうございました。




【作者様からの返信】

辰井さん、ご講評ありがとうございます!
非現実極まりないシチュエーションの話なので、あまりリアリティラインには拘らずなんとなくコメディ寄りという感覚で書いたのですが、馬酔木のキャラクター含めて「いい意味で漫画的」という評価が、自分での中で言語化出来ていなかった部分を言語化していただいた形で、とても腑に落ちました!

頭脳バトルものを初めて書いてみたので、破綻があったらどうしたものか……と思っていたのですが「ルールとロジックがしっかりしている」と評して頂けて安心しました。
馬酔木が鬼島に皿を舐めさせるところは、毒のことの辻褄合わせもありましたが、ほぼ趣味で入れたのでゾクゾクしていただけて何よりです。
グルメ描写を本当はもっと書きたかったのですが、状況的に悠長に食レポしてる場合じゃないなと思い、コンパクトに纏めたので、それでも2日食べてない空腹+美食家馬酔木の料理の腕の確かさで美味しさが伝わったようでよかったです!

鬼島の今後のことはあまり考えていなかったので、ごもっともなご指摘だと思います。
一応、冷徹な若頭補佐への部下の反発を、鬼島が人情面でフォローしてまとまってた若頭補佐派なので、鬼島が戻ってきた方が補佐派の部下一同的にはありがたい展開です。馬酔木もついているし、なんとかやっていけると思います。

訳の分からないジャンルの話だったにもかかわらず、丁寧にご講評してくださって、こちらこそ本当にありがとうございました!

佐倉島こみかん『あるいは最後の晩餐