手に残るネクタイと青春の清算『それでも、嫌いになれない。』

ミヤシタ桜『それでも、嫌いになれない。

僕と彼は必然的に運命的に、近づきそして離れていった。

惰性的に生きるうちに、いつのまにか夕方になっていた。僕は、なんで生きているんだろうか。
そんな考えに陥るたびに、僕は彼のことを思い出してしまう。




こんにちは、辰井です。先日は自主企画「辰井講評窓口3」にご参加くださりありがとうございました。こちらに講評を書きます。

”惰性的に生きる”男が学生時代の想い人のことを回顧し、自分とどんどん差が開いていった彼に対して青春の決算をつける行動をする話。よかったです。まず、文章から。文章は一文一文丹念に書かれていることが分かるものです。言ってしまえば人工の美なのですが、この作品の場合は鼻につくものではなく、書き手の若さを含めて味として読めるものでした。感動したのは、文章を凝っていてもなお失われないリズムのよさで、これから先も文章にこだわって書かれることと思いますが、リズムのよさは保ち続けてほしいと願わずにはいられません。

同性愛の位置づけは若干気にならないではありませんが、そもそも私がBLを書いていても男性同士であることをほぼ全くと言っていいほど障壁として書かないラディカルな原理主義者なので、私が過敏なのかもしれません。
ネクタイの使い方がうまいですね。学生時代の青春を回想させるきっかけ。仕事を辞めた自分にはもう結び方すら分からない、彼との違いを象徴するもの。そして無意識に買ったけれどデザインは彼が学生時代につけていたものと同じもの。つまり微かに残る繋がりの残滓。
最後の一文もとても素敵でした。どうしよう、べた褒めだな……。

自己嫌悪系主人公の話ってともすれば物語に起伏が無くなったり食傷してしまったりするのですけど、この小説の場合最後にアクションを取るので、そのあたりの問題を感じずに読み終わりました。一読者の思いを述べるならば、一種”硬い”ところが今のミヤシタさんのよさである一方で、より柔軟な作品も読んでみたいという欲張りな気持ちがあります。
ミヤシタさんの作品をもっと読みたくなる一作でした。読ませてくださりありがとうございました。




【作者様からの返信】

リズムの良さ、失われない事を望みます…

同性愛については、私も試行錯誤の状態です。

自己嫌悪系の話は、作者の一方向になりがちなので、そこは書いていていつも迷ってしまいますね

丁寧に、講評してくださりありがとうございました

ミヤシタ桜『それでも、嫌いになれない。