自分の中で短編の基準が変わってしまった作品『晴れた日に傘を選ぶ』

高橋 白蔵主『晴れた日に傘を選ぶ

「ねえねえ杉里くん、ほら、ごっちぃいん!」

賢くてエキセントリックな彼女と過ごす午後。

大人になれなかった弟や妹のこと。あらかじめ決められた運命のこと。そして、晴れた日に傘を選ぶようなこと。




こんにちは、辰井圭斗です。昨年は「辰井講評窓口3」にご参加くださりありがとうございました。講評を書くのが大変遅くなってしまい申し訳ありません。こちらに講評を書きます。

賢くエキセントリックな彼女と過ごす午後の話。キャプションを読んだ段階で、ああこれはきっとやばい作品だな、多分講評を書く時、最初に一旦「やばい!」と叫ばないと平静に講評を書けないだろうなと思っていましたし、本文を読んでその通りでした。なんて言ったらいいのか、雰囲気がいいんです、とにかく。べらぼうに文章がうまいですが、これ見よがしにうまいのではなく、「なんでここの地盤はしっかりしているんだろう」と覗いてみたらとにかく文章がうまいみたいなうまさ。

全体に大変さわやかで上品です。多分高橋さんは所謂「リアルな」人物だけで作品を書いてしまうこともできると思うのですが、この作品は「彼女」もとてもいいし、「彼女」のエキセントリックさによって一層上品になっているように見えました。大人になれなかった弟や妹。遺伝によって定まっていること。それに限らず人生には色々あって、それは確かに心に影を落としているけれど、湿っぽく深刻ぶらない、それがさわやかで上品でした。

ちゃんと読めているか自信が無いので、妄想が入るかもしれませんが、弟と妹が亡くなっているということと、2人とも病院にいたということ、メンデルのエンドウ豆の話から、恐らく2人は特有の遺伝子を持っている。だから、結婚や子どもを産むということが普通の問題ではないし、もし2人がそうなるのなら一層話は難しくなる。「彼女」が「僕」に対してたしなめるのは、たしなめるだけとも言えるし、確かにたしなめているとも言える微妙な対応。
そんな彼女も「うーん、べつに」とは言いつつ、「なになに、流れ星?」と「僕」の視線を追いかけてしまうあたり、綺麗と残酷が表裏の流れ星を見たいとも思っているような気がするのです。
“だから、とりあえずは現実の傘を探そうと思う。僕も、そして出来るならば彼女も気に入るような、手触りのよく、広げた時の音もさっぱりした、はっきりした色の傘がいい”というのは本当にさわやか。そして安易にまとめることに抵抗はありますが、強さの話だと思いました。

ちょっと震えるような作品でした。読ませてくださり、ありがとうございました。




【作者様からの返信】

こんにちは。
ご高評ありがとうございます。

なんも考えずに読んだ後、引っかかるものがあって読み返すとちゃんとそれぞれ違和感のヒントのようなものに気付けるようなもの、というのを目指して書きました。

ご高察のとおり、潜性の遺伝病、家族会の話として書いてます。病気の因子を持っている、ということは重大なことではありますが、それが人生で最もウェイトを占めるべきかというのは、わたしは「ちがうのでは」というふうに思っています。

そんな暗い設定なので、読み味としては軽くて気楽なものを目指しました。うまく伝わっているようでたいへん嬉しいです。ありがとうございました。

高橋 白蔵主『晴れた日に傘を選ぶ