やはり魔術師であった彼女の物語『魔術師の小指』

 坂水『魔術師の小指




 きっと事実としてはお義父さんの言うことが正しいのです。

「せいぜい『世界びっくり人間』か『一発屋芸人』ぐらいのものだ」

 しかし、絵里子はその一つきりの能力で、多彩な効果を生んできました。まるで彼女が思いのままにいくつもの魔術を行使する魔術師であるかのように。いいえ、その限られた力が限られていることを(抜けているとか言われるけれど、あまり)感じさせず、周囲を魅せたという点において彼女はまさしく彼女の名乗る通り魔術師でした。

 その彼女が電話をかけてくるときの様子は、描写が巧いという以上に、そして圭一のことを愛しているのだろうというのが分かる以上に、どこか独特の空気感を持っていて、物語を最後まで読んでしまった後読み返せば、ああそういうことだったのかと分かります。

 小指との生活もそう。恋人の一部とのどこかツンツンした可愛らしい生活かと思えば、実際のところは――(それでも可愛らしいのですけど)。

 三月中旬に彼が受け取った知らせも、圭一たちや読者にとっては衝撃的でしたが、読み返せば彼女が編んだ魔術の糸が集まる結節点であり、また違った意味でのターニングポイントです。

 つまるところ、物語を読み終わって、その魔術の正体を知るまで、読者も魔術師絵里子の掌の上にあります。

 余談ですが、終盤、圭一と知子が語るシーン、圭一の誤解と執着は男性的であり、知子の縋り方は女性的であるように思われました。こういう場面できちんと性差を描くのだなと思いつつ、そのことによって彼等がまだ生きている人であることが浮かび上がっているような気がして感嘆しました。

 これはやはり魔術師であった彼女の物語。どうぞ幻惑されてください。

 坂水『魔術師の小指