偽教授『林檎と甜橙、女奴隷とその主人』
誰だって自分の運命を、自分の運命だけを生きているんだよ。
この世界には
エルフをはじめとする様々な種族が暮らしています
この大陸は
ただ一つの帝国によって統治されています
この帝国では
誰も魔物や怪物の脅威に怯える必要はありません
ですがこの社会には
奴隷制度が存在しています
この物語の語り手を務めますイリス・レティクラタは25歳になるエルフ族の才媛。物語の冒頭、ルービィという名の15歳になる獣人の少女を買うことになりました。
二人の心の軌跡を辿るための一つの物語が、そうして幕を開けます。
「Don’t compare apples to oranges/林檎(りんご)と甜橙(オレンジ)を比べてはいけない」
意味のないことをするな、という意味の欧米のことわざ
めっちゃくちゃ面白かった!!
帝国のトップエリートかつインテリである主人公レティが奴隷市場をうろついていたら、そこに彼女でも分からない言葉を喋る謎の男がいて騒ぎが起きている……という出だし。それ自体も面白いんですが、デティールがたまりませんでした。例えば、
”子供でも知るように、この帝都のうちで三つ目に来る名すなわち氏族名を名乗ることは貴族にしか許されていない。僭称すると最悪死刑である。わたしは宮廷貴族で領主貴族ではないから所有領地を示す四つ目の名は持たないが、それでもこのような場所で威風を払うくらいには十分だ。”
とか。こういうの大好き。主人公の最初の名乗りの時にこれが書いてあるものだから、もう格好いい格好いい。しかもこの設定、後々大変重要なんですよね。
その他にも文章の端々から作品の背後に膨大な知識と作り込みを感じるんですが、本作、読み口がかなりライトでサクサク読めてしまいます。その上「待ってました」のポイントはしっかり押されてしまって、書けるものの幅が広い作者さんだなと思いました。
物語上未回収に思われるものは、あれとかそれとかあるのだけど、未回収や余剰が積み重なってそれでも日々を続けていくのが人生ではないでしょうか。
そう、読み口ライトなエンタメでありつつ、魅力的な登場人物たちの人生の物語でした。
偽教授『林檎と甜橙、女奴隷とその主人』